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2014年7月29日 (火)

終末期医療におけるスピリチュアルペインについて④

(4)関係存在の喪失に伴うスピリチュアルペインについて
 関係存在とは「人の存在は、他者から与えられる」と定義されます。人は、他者の他者としての自分の存在を常に感じています。他者のいずれに対しても自分の存在はなんらの意味も持っていないという思いにとらわれた時、人はひどく落ち込むのです。R.D.レインの言葉を借りれば、
  人間は他者の存在の欠落を経験するのではなくて、他者に対す
  る他者としての自分の存在の欠落を経験する。
ということになります。
 わかりやすい例をあげます。夫としての私の存在は、妻がいるからです。父親としての私の存在は、息子達から与えられるということです。もし私が余命三ヶ月の末期癌であると判明した時、三ヶ月後には「妻にとっての夫としての私の存在」「息子にとっての父としての私の存在」が消滅してしまいます。
だからこそ、私の死後、家族は生活できるのだろうか、息子の学費は足りるだろうか、私は妻子に対して充分なことができたのだろうか、私のことを思い出してくれるのだろうか、などの苦悩が生じます。これが、関係存在の喪失によるスピリチュアルペインです。
 ある末期癌の患者さんが、お亡くなりになる直前におっしゃった言葉は忘れられません。
「私達夫婦は一生懸命に働いてきました。子供が小さいときは、必死で子育てしました。ようやく子供が独立し、私が定年退職となり、これから夫婦二人で温泉にでもいこう、といっていた矢先、私がこんな病気になってしまって。先生、私はもう、妻を温泉にも連れて行ってやれないのですよ。」
これこそが関係存在喪失に伴うスピリチュアルペインです。
 末期癌の患者さんの中には、医者の処方する薬は飲むのを止めても、家族が買ってきたアガリクスのような民間療法の薬をぎりぎりまで飲もうとする人がいます。こういう薬はとても高価ですが、そんな物を飲んでも絶対に良くならない事は、実は患者自身が一番分かっているのです。
しかし家族が自分の事を大事に思って、無理して買ってきてくれた事も知っているので、ぎりぎりまで飲もうとするのです。また、誰とでも一緒に写真を取りたがる終末期の患者がいます。私が死んでも、私という存在を忘れないで欲しいという思いの現れです。
 関係存在の喪失によるスピリチュアルペインは、何も末期癌患者の専売特許ではありません。例えば、認知症を抱える家族にも起こります。アルツハイマー型認知症の患者は、その病気の性質上、介護している妻や子供の記憶まで喪失します。徘徊や不潔行為等の症状に悩まされながらも、夫だから、父だからとがんばって介護しているのです。
ところがその妻や子供に向かって「あなたはどちらさんですか?」と尋ねるようになるのです。介護している妻としての存在が、子供としての存在が失われたと感じる瞬間です。今までしてきた苦労が水泡に帰したと感じる瞬間です。私が診ていた認知症高齢患者の妻が、ある時、ぽつんとこう呟きました。
「この人は愚痴一ついわずに、私や子供達の為に必死で働いてくれました。だから今、こんな状態になっても、恨むことなどできませんよね。」
自分が妻である事もわからなくなってしまった認知症の夫と、一日中一緒に暮らさなければならない妻の、絞り出すような慟哭でした。
 認知症を介護する家族が感じるスピリチュアルペインは、患者が死亡した後にも起こってきます。認知症だからとわかっていても抑えきれない苛立ちや怒り、その結果大声で怒鳴ったり、時には思わず手を挙げてしまったりしたかもしれない。そういうことを、後々思い出しては心に刃が突き刺さるのです。
 いかなるスピリチュアルペインでも、全面的に信頼できる連れ合いや子供がいる場合、関係を強める事で乗り切ることが可能となります。
また末期癌を看病する家族同士、認知症患者を介護する家族同士の交流が、お互いを慰め合い、励まし合い、新たな関係存在を構築することで、ケアされる事もあります(病院という場は、そういう新たな関係を築く僥倖(ぎょうこう)を与えてくれることがあります)。

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